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組織としてのオズビジョンの最大の目的とは? 鈴木良さんインタビュー ー前編ー 【オズビジョン代表取締役】
「人の幸せに貢献し、自己実現をする集団で在る」を企業理念に掲げるオズビジョンの鈴木良さんは国内外の批評家も注目し、その動向を分析する、まさにその急先鋒ともいえる存在だろう。
オズビジョンは、それぞれの社員が自分たちが思う「正しい」と向き合い日々働いているような会社だ。ただ、おのおのが自由に動いているだけでは、全体としての意思疎通はもちろん、ビジネスにおける効果的な成果はえられない。そこにはそれぞれが各自の役割を自覚し理解することで、自ら行動する有機体のような存在としての組織が求められる。鈴木さんはそれを好奇心豊かな仲間とともに既存の価値観に縛られることなく、新しい世界へ冒険することで軽やかに成し遂げようとしている。
そんなユニークな会社、オズビジョン立ち上げの経緯から、いま考えていることをたっぷりと聞いた。
人の幸せを通して自己実現をする会社
ーー組織マネジメントの分野で話題の書籍「ティール組織」に、日本で唯一取り上げられるなど、24歳でオズビジョンを創業した鈴木さんが、なぜこの短期間で現代の最強組織といわれるティール型組織を作ることができたのでしょうか?自己分析をしていただけますか?
ティール型組織といわれるのですが、自分では正直あまり分かっていないところがあります。でも書いている内容に違和感はないです。マズローの欲求段階や、チップコンリーのピークとか、人間性を段階に分けて説明する試みは以前から親しみがあったので。ただ、ティール型組織についてどう思われますか?と聞かれるたびに、ティール型組織って何ですか?とお聞きするんですが、みなさんそれぞれ解釈が違うんですよね。ですので聞かれても正確には答えにくいというのが正直なところです。
ーーなるほど。それでもある面で事実としてオズビションはティール型組織であると評価されているわけですが。
まず私のティール型組織の解釈は、人間性をより活かす組織形態の1つという理解ですが、そういう意味では理念に人間の根源的欲求を目的として掲げてきたため、人間性を活かすことについては強く意識はしてきました。
そして世の中のほとんどの企業は人間性をより追求していくとは思っています。なぜなら企業はクリエイティブな仕事を求め、個人はやり甲斐や自分らしさを仕事に求め、双方が全人的で在れる環境を求めているからです。
ーーティール型組織と評価されるような働き方というのは、鈴木さんが起業当初から思っていたことだったのでしょうか?
正直最初はあまり考えていませんでした。ただただ自分の好きなことを好きなようにやれる会社を作りたいとしか考えてませんでした。どんなに儲かろうとも、やりたくないことを我慢してやるような会社にはしないとかそんな程度です。社会をこう変えたいという理念やビジョンがあったわけでもありませんでした。
ーーアパレルショップなど、いくつかの会社を立ち上げた後、24歳でオズビションを創業されたんですよね。
24歳という若造で、自分より年上で仕事ができる人を採用しても高い給料は払えない。経営者としてのカリスマ性もない。そんな状況で仕事をしてもらうためにまずやったのが、社員にまず自分の会社だと思ってもらうことでした。それでまずは社名を社員みんなで作り直しました。
ーー社名を考えるところから、現在のオズビジョンのストーリーが始まっているのですね。
はい。自分のなかでは、意味のある社名にしたかったので、共感する物語の名前にしようという思いだけがありました。それで社員たちにいい物語はないかと聞いたところ、誰かが「オズの魔法使い」がいいと提案したんです。そこでピンときました。みんなが働く目的には一流のエンジニアになりたい、家族を幸せにしたいといったそれぞれの思いがあり、個々の願いは違う。そういう個々が集まり組織として共通の目標に向かっていくのが会社です。オズの魔法使いの物語もそうですよね。それぞれ個々の目的を果たすために、伝説のオズの魔法使いに出会う旅を協力しあってしていくというストーリーです。結局オズの魔法使いはただのおじいさんで、しかも魔法も使えずみんなががっかりするわけです。そこでおじいさんは、でも君たちは道中での試練を乗り越えるたびにすでに願いを叶えていたじゃないかというお話です。それって私が考える理想の会社に似ていると思いました。それぞれ個人の目的は違うけれど、会社という組織のなかで同じ目標に向かって力を合わせるか過程で個々が目的を果たしていくイメージです。それでオズという言葉を使うとまず決めて、その後誰がビジョンをくっつけたいというので、最終的に多数決でオズビションになりました。
ーープロセスを豊かにすることはやりがいにも繋がりますし、目標を目指すモチベーションにもなりますね。
やってみてわかったことですが、みんなに同じ目的を追って働いてもらうためには、当事者意識をもってもらうことが大切だと思いました。でも社員がまだ少ないときはサークルみたいなノリで、人事、営業、マーケティングも全員でやっていたのが、人数が増えていくと分業化することになります。それまで全員で決めていたことが、チーム単位の分業となると、それまでは会社のことはみんなが分かっていたのに、そういかなくなってきます。人も増えてくると価値観もバラバラになってきます。そうすると社内の軋轢が出てきて、会社がなんとなくつまらくなってきたんですね。
ーーそれが何年くらいですか?
会社を立ち上げて2年目くらいです。それまでは売上伸ばすぞ、競合を倒すぞといった部活ノリだったのですが、社員が増えてくると売上という指標だけでは意思決定ができなくなってきて、次第にバラバラになっていきました。それで組織としての軸が必要だとなり、経営に関する本を読みあさりました。そこで会社には理念があって、ビジョンがあって、戦略があると書いてありました。それじゃと理念を定めて、それを軸に判断していこうとなり、理念経営をはじめたんです。
実はそのときにすごく悩みました。というのも目標であれば、それを達成したら変えることができますが、理念は普遍かつ不変的なものと書いてあって、そう簡単には変えちゃいけないらしい(笑)。25~6歳の人間が会社の30年後を予想してブレない軸をつくる。メチャクチャ難しいと思いました。
ーーそれでどうされたのですか?
なぜそもそも会社はあるのか、会社は働くためのうつわである、それではなぜ人間は働くのかということを考えていたときに、たまたまマズローの本を手にしました。マズローがいうには人間には欲求段階というものがあって、それはどんどん高次に上がっていくと説いています。まずは食べる、寝るなどの生理的欲求があり、次に安心安全に暮らしたいという安全欲求、そして友人や家族などから受け入れられたいという所属・愛の欲求、他者から尊敬されたいという承認欲求、そして自分の可能性を具現化したいという自己実現の欲求を追求するというものです。それを読んですごくしっくりきました。
人はこの欲求に基づいて人生を過ごしているなら、会社という人が働くための仕組みの目的を、その欲求にすればブレないであろうということです。そこで「自己実現」を理念の中核におきました。ただ自己実現をすることだけを目的にしたら、人から見たらどうでもいいことですし、社会に必要とされない限り存在し得ないと思いました。そこで自分の自己実現という目的には違いがないのですが、手段を誰かの役に立つこと、人の幸せを通して自分の自己実現をするということにすれば、いい循環になるし世の中のためにもなる。それで「人の幸せに貢献して、自己実現をする集団で在る」という理念をつけました。
ーーそれで誰かのためという意味での「人の幸せに貢献」と、それぞれが全体として自己実現を目指すチーム「自己実現する集団で在る」なのですね。
そうです。一人でできないことをやるために組織をつくっていること、そしてこれは「在り方」なので、「なる」ではなく、「在る」にしています。最初のティール型組織の話になりますが、人間性を会社に生かそうと思うようになったのにはそういう経緯がありました。24歳の若造で既存の会社組織というものに無知だったからこそ、そういう経営しかできなかったという背景があります。
ーー経営というものを学んでこなかったからこそ、逆説に働くことと生きるということの本質に向き合え、そういう組織づくりができた。
そんな感覚です。
幸せというつかみどころのないものを数値化する。
ーーたとえ専門的なことを学ばなくても、自分が目指すべき方向さえしっかり持っていれば、世界的な企業をつくることができるということは勇気づけられます。そんな鈴木さんにとって子供の頃から変わらない夢はありますか?というのも、子供の頃に大切にしていたものって、漫画でもスポーツでも、大人になった今でも心の中のどこかしらの軸になっていると思うからです。
夢というより昔から変わらない軸は明確に二つあります。それは「仲間」と「好奇心」です。だから私の人生のテーマは、冒険団ごっこです。言ってしまえば、仕事は、仲間と好奇心を追求する「冒険団ごっこ」なんです。中学高校時代から友達命で、いつも仲間と一緒で、家にはほとんどいませんでした。その頃から友達が7人で、その仲間とは今でも何も変わりません。会社の仲間も友達とは違いますが、同志としての強い情を持っています。
ーー映画「スタンド・バイ・ミー」みたいですね。
また、好奇心という意味では、保育園の頃に親にも言わずに、車で20分の距離にあった幼稚園に一人で勝手に三輪車で行ったことがあったそうです。両親は朝、相当探したようです。そんな小さな時から冒険好きだったんでしょうね。この会社も知識が先にあってつくったわけではありません。未知の体験や冒険をするのは昔から好きでした。数年前には社会人インターンシップで1ヶ月間会社を休んで、英語も喋れないのにシリコンバレーに行ったこともありました。今の会社もまさにそうですが、仲間と冒険するということが続いている感覚です。
ーー旗を振るように仲間と一緒に未来に進んでいく。鈴木さんご自身がまさにオズの魔法使いに登場する女の子、ドロシーみたいですね。
そうですね。まさにそうかもしれませんね。ワンピースのルフィーみたいなリーダーというより、誰がリーダーかわからないオズの魔法使いのドロシーの方が理想です。
ーーいまのお話もそうですが仲間と冒険=働きながらこうあるべき世界を目指していくということがオズビションの軸になっていますよね。
先程の事業と顧客双方の同じ温度感ということや私たちの理念は、目標や達成することというよりも、つねにそうある「在り方」のような感覚です。もちろんビジネスとしては目標はあって、そのための戦略もありますが、もっと本質的な問いや長期的なものといえば、「在り方」を大切にしています。
ーーそのような理念を描き組織として実行できるのが一人の人間としての鈴木さんの魅力だと思います。鈴木さんが描くチームとしてのその「在り方」がほかにはない唯一無二のものとなって、そこで働く仲間たちの夢をひきつけているような気がします。
意識してやっていたわけではありませんが、客観的に見るとユニークなことなんだなと少しずつ思えてきました。だから世の中の人たちからは、社員一人一人がオズビションらしいよねと言われることが多くて、社内に「文化」ができていっている感覚はあります。
ーー理念の策定とほぼ同時期に経営の方向を、数字ではなく情緒的価値とファンを生み出すファン化の方向に舵を切っていかれたのですね。
はじめは事業は無視して理念をつくったので、事業と理念が結びついていませんでした。ポイントサイトという事業自体が最初は売上を上げるために選んだものでしたが、理念をつくったことで、この理念をもった自分たちが、この事業をしていくべきかと考えるようになりました。人の幸せに貢献して、自己実現をしていくわけですから、この事業を通してどうやって顧客やパートナーの幸せに貢献できるのか。そうやって理念から事業の方に向かっていきました。
ところが幸せとは定義が難しく、幸せのような数字で図れないものは管理もできない。そこで測れるものが必要だというときに見つけたのが、NPSという指標でした。
ーー企業理念を指針とした経営に転換するにあたり、NPSを理念が実現できているかを測る最重要指針にしたのですね。
そうです。世界的にNPSを経営の経営指標にし、かつ成功している企業にアメリカの靴のネット通販会社「ザッポス」がありますが、そこには2度視察にいきました。
ーー日本の多くの企業もNPSは気にしてはいると思いますが、最重要指針にしている会社は稀有ですよね。
最近では有名な大手企業もNPSを入れ始めましたが、当時は少なかったですし、いまも一マーケティング部門が取り入れることはありますが、本格的に経営指針に入れるところは少ないと思います。なぜウチがそれをできたかたといえば、NPSというイケてる指標があるぞというのではなく、風上にある理念を事業に落とすために、どうやったら幸せという掴みどころのないものを指標化できるだろうかと探して、それを大事にしていこうと決めたからです。なんといっても、NPSとは自分の家族や友人に勧めたくなるサービスとしていくための指標です。人ってよほど驚嘆する感動をもらえないと自分の家族には紹介しないじゃないですか。しかも継続率という成長の源泉とも相関しているんです。実際にNPSの高い人と低い人のLTVを測ったら、1年だと低い人の方が高かったのが、2年まで伸ばすと倍の差があることがわかりました。これは継続率の高さゆえです。さらに高い人は良質なクチコミやレビューをするので新規顧客も呼び寄せます。だから踏み込めたというのはあったと思います。
仕事を通じて人を幸せにできることを信じる
ーー御社の理念はとても素晴らしいと思うのですが、それを一緒に自己実現していく仲間である社員に浸透させていくためにどんなことをされましたか?
いろいろやりましたが、一番はトップが本当に大事にしたいと考えている概念を理念にすることが良いと思います。なぜなら、社員は言葉ではなく行動をみていますから、トップ自身が行動で示すのがもっとも文化になりやすく浸透するからです。実際理念の唱和なんて一度もしていません。正直過去には理念を全面に押し出したこともありましたが、やりすぎると人の価値観を押し付けられているように感じて、悪く言えば洗脳をされているようにもとらえられかねません。それはクレドも同じで、行動を通じてそれがエピソードになり、エピソードが増えれば増えるほど浸透していきます。
ーー今回のリブランディングに合わせてクレドも新しく見直したそうですね。
はい。これは新しい挑戦ですが、役職や入社歴に関係なく、全社に声がけして手を上げてくれた11名で0から作り直しました。
ーーそうされた理由を教えてください。
クレドは社長や幹部の価値観ではなく、我々の価値観にしたかったためです。だから、私や幹部で決めて浸透させるという従来のやり方をやり直したかったんです。
ーー鈴木さんはアーティストやアスリートと同じように、ビジネスで人を感動させることができる、幸せにすることができると本気で信じるその理由を教えてください。
ビジネスでもアートでも、スポーツでも当事者の目的いかんで、生み出す価値はいかようにもなると思っています。ポイントサイトも事業者がどういう価値を提供するかと決めさえすれば、当然ながら事業はその方向に進んでいきます。お小遣い性を高めれば副収入を求める人が来るでしょうし、ゲーム性を求めればゲーム好きなお客様がきます。感動や非日常を価値にすえれば、そのようなお客様が来ると思います。
私たちの運営しているハピタスではどんな価値を提供しているかといえば、幸せなお財布を提供しているんです。みなさん、獲得したポイントを普通の買い物にはあまり使いません。家族旅行や家族へのプレゼントを買ったりしている方が多いんです。生活費を使うのは気が引けるけど、ポイントだからこそ本当に好きなもの大切や人との特別なモノやコトに使うんですね。そういう特別な体験を提供するんだと事業者側が意図すれば、実際にそういうお客様が増え、サービスもそちらに進化します。
会社も同じで自己実現することを目的に掲げれば、そのような人が集まると信じています。
ーー鈴木さんご自身で影響を受けた人や言葉はありますか?
ザッポスのCEOのトニー・シェイの言葉で、「お客さまは「何をしれくれた」かは覚えていないかもしれないが、「どんな気持ちにさせてくれたか」は決して忘れない」という言葉は、自分たちが顧客に接するスタンスとしてとてもしっくりきました。あとはマズローの「人は金槌しか持っていなければ、すべては釘にみえる」という言葉も好きです。前者は顧客志向のスタンスとして、後者は何を測るかが重要だという戒めです。
ーー目指す方向性についてはいかがですか?
何を目指すかは、ビジネスでも自分の人生でも同じように、心持ちひとつでいかようにもなると思っています。
それともうひとつ思い出しました。スティーブン・R・コヴィー博士の「7つの習慣」のなかの言葉で、「人間には自由意志がある」という言葉があって、私はそれを「すべてはとらえ方次第だ」と変えているのですが、それは自分の人生の軸でもあります。
ーー確かにそれは共感しますね。ものごとはとらえ方次第でどのようにも変わります。たとえ試練であっても、それを自己実現のためのチャンスだととらえればポジティブにもなれます。心構えひとつで変わりますね。
はい。だからビジネスにおいても、アーティストやアスリートのように、誰かを感動させてそれを自分の成長や収入につなげることはいくらでも可能なことだと思っています。
ーー鈴木さんは経営面においても成長を続ける企業の経営者として、なぜそこまでポジティブに考えられるようになったのでしょうか?
ポジティブなのは恐らく母親の影響です。私の母親は自信という絶対的な杭を愛情を持って自分のなかに打ち込んでくれました。だから人と違うことを恐れないある種の強さは母親の存在が大きいと思っています。
ーー今後のオズビジョンの展開を教えてください。グループ経営を強化するとお聞きしました。
この3年間で、海外事業やFintech事業などの新規事業、AIと実購買データを使った与信モデルの研究開発、スタートアップへの投資事業などに多数取り組んできましたが、次の3年は新たなグループドメインを制定し、そこに経営資源を集中させて事業開発のスピードを今の倍以上にしていこうと思っています。2019年度中に新たな中期経営計画を打ち出す予定です。
ーー②に続きます
WRITING
フリーランスライター / エディター加藤 孝司1965年東京生まれ。デザイン、ライフスタイル、アートなどを横断的に探求、執筆。2005年よりはじめたweblog『FORM_story of design』では、デザイン、建築、映画や哲学など、独自の視点から幅広く論考。休日は愛猫ジャスパー(ブリティッシュショートヘアの男の子)とともにすごすことを楽しみにしている。 http://form-design.jugem.jp/