東急電鉄から学ぶ、戦略的な新規事業開発
オズビジョンでは成長戦略として、新規事業開発を推進しています。
一般的に、新規事業を展開していく領域は、
A.楽天やリクルートのように、主力事業やケイパビリティとのシナジーがある範囲に絞るパターンと、
B.ソフトバンクやサイバーエージェントのように、インターネット事業くらいの範囲しか制限せず、シナジーも重視しないパターンと、
大きく2通りあるように思います。
私は、その業界のイノベーションスピードや競合度合いによって使い分けたいので、両方の勉強をしています。
そんな中、東急電鉄の戦略が前者Aパターンとして示唆に富んでいたので、備忘録を兼ねて記しておこうと思います。
東急電鉄は、売上も利益もトップ
東急電鉄(正式名称:東京急行電鉄株式会社)は、鉄道事業を基盤に、不動産事業、小売事業、ホテル事業などを手掛け、連結売上は1兆を超えます。
JRを抜かした、関東の民営鉄道事業者の中でトップ売上と利益を誇る企業です。
そして東急電鉄のHPやIR資料から、
①「鉄道事業」を基盤に、
②「沿線」を中心とした、
③「不動産、生活サービス、ホテル・リゾートなどの都市開発事業」を展開する。
という成長戦略の基本方針が読み取れます。
これをフレームワーク化すると、こんな感じでしょうか。
①「トラフィックを生み出す事業」を基盤に、
②「その基盤が形成する経済圏、縄張り」を中心とした、
③「②の価値を高め合うシナジー事業」を展開する。
自分たちの縄張りである沿線上の都市開発をすることで、人が増え、地価が上がり、誘致が増え、また沿線価値が高まるという好循環を生み出す、優れた戦略だと思います。
ただ、①の基盤事業の成功無くして、②③は成立しないモデルとも言えます。
(冒頭に書いたAパターンの共通点と言えそうです。基盤事業がダメになると全体が弱体化する。)
そもそも、鉄道事業の成功の鍵は何か。
先日、弊社の事業推進部長の松田からの紹介で、K.I.T.虎ノ門大学院教授であり、経営戦略全史の著者でもある三谷さんと、偶然にも東急電鉄肝いりの二子玉川ライズでお会いする機会がありました。
そこで、”なぜ東急電鉄が最も収益性が高いのか”を教えてもらいました。
それは中核路線である東横線が、関東で唯一、渋谷と横浜という2大都市を繋いでおり、繁閑差の少ない路線であるためということでした。
実際に、輸送人員、乗車効率、そして客車走行1キロ当たり旅客収入が断トツの1位とのこと。
都市部から郊外へつなぐ他の路線とは違い、都市部から都市部をつないだからこそ、客車走行当たりの稼働率が高い。
つまり、固定費ビジネスである鉄道事業の成功要因は、稼働率の高低であり、戦略的な沿線ポジショニングにあるということだと理解しました。
詳細は三谷さんの記事より
でも...なぜ東急電鉄だけ?
でも、そこで一つ疑問が湧きました。
「2大都市を繋げたいなんて、どの鉄道事業者も普通に思うだろうに、なぜ東急電鉄だけがそれをできたんだろうか。」
そこで、彼らの成長戦略の基本方針を思い出して気付きました。
「もしかして、都市自体を自分たちで創ったんじゃないか。」
早速、渋谷の成り立ちを調べてみると、こう書かれていました。
”戦後、1950年代になると渋谷での復興と新規開発が進んだ。その主導権は東急電鉄にあり、1954年(昭和29年)に東急会館(旧:玉電ビル、現:東急百貨店東横店西館)、1957年(昭和32年)に東急文化会館(現:渋谷ヒカリエ).......”
やはり、自分たちで創ったようです。
そして、当時の経営者を見ると、大物政治家の名前が散見します。
これで、なぜ東急電鉄だけが2大都市を繋げたのかが、腹落ちしました。
そして今現在も東急グループは、
”鉄道事業を基盤にした、都市開発事業、街づくり事業”
と、自分たちのことを明言しています。
まとめ
以上、東急電鉄の成長戦略をまとめると、
基盤事業の成功の鍵を早期に見抜き、
事業ドメインを鉄道事業から都市開発事業へと拡大・再定義し、
沿線と言う経済圏全体の価値が高まるような新規事業開発を次々に行う。
という示唆があります。
これは冒頭に述べた、Aパターンの好例になるのではないでしょうか。
次の事業の柱を見つけるために、黒字になればOKという方針で新規事業を片っ端からやるより、よほど戦略的に企業価値を高める事業開発ができそうです。
我々の事業の成功の鍵は何か。(ex.閑散差のない沿線運用、稼働率の高さ)
その成功の鍵を手に入れるケイパビリティは何か。 (ex.都市開発力)
我々の経済圏、縄張りは何か。(ex.沿線)
などの軸で、我々オズビジョンも、戦略チームのみんなとここ数ヶ月議論を重ねています。
同じように、成長戦略としての新規事業開発における方針を模索している企業さんがおりましたら、ぜひご連絡ください。一緒に勉強会でもしませんか。